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舞台鑑賞と日常のおぼえがき


by unekocan

「星になった少年」

昨日、バレエのレッスンの前に、新宿スカラ座で「星になった少年」を見ました。
この暑さで、バスがある時間に家を出なければならないので、レッスンの時間までいる場所が必要だった、というのが一番の理由。新宿では時間の都合がよい映画はこれか、武蔵野館の「恋する神父」くらいだったんです。で、こちらを選んだのは今年の春先、原作者の坂本小百合さんと「勝浦ぞうの楽園」の話を、何度もNHKで取り上げていて、奇特なことではあるけれど、そんなに報道しなければならないことか?と引っかかっていたから。そのときには映画になる、ということは確か言っていなかったと思います。NHKだからかな?それから、くろうさに主人公の少年が象使いになりたかった理由が映画キーらしいよ、と言われて、それに興味がありました(ですから、続きを読むとその「キー」のことに触れますので・・・これから見る方はご注意を)。




「誰も知らない」の柳楽優弥さんが小川哲夢役で、役どころもなんだか似ている。長女・長男を連れて動物プロダクション社長の男性と再婚した母親は、「誰も知らない」のように子供を置いてでていったりこそしないものの、自分のやりたいこと優先。会社の経営は厳しく、「動物のえさ」と言って商店にもらった賞味期限切れのうどんを食べているような生活で、哲夢は中学校では仲間はずれにされている。いいんですけれどね・・・こういう役ばっかりになっちゃうと抜けるのが大変かなあ、なんて余計な心配をしたり。
うー、この動物プロダクションの家とか、タイの象学校とか、ほこりと泥だらけの映像、苦手です。ディズニーシーの「インディジョーンズ」のあたりも好きじゃないくらいなので。哲夢の実家のごちゃごちゃさ加減に比べたらタイの象学校の方がよほどすっきり、秩序だって見えました。

映画としては、玄人受けはしないし、残る作品でもないだろう、と思います。タイの象学校の場面はオールロケで、象も何十頭も出てくるし、お金のかかり方は「映画規模」なんですが、その他の点ではテレビのスペシャル枠2時間ドラマくらいかなと感じたので。映像も音楽も脚本も、なんか映画的じゃないなあと思ってしまうのはいつも凝ったものばかり見ているからかなあ。
脚本は「てるてる家族」を書いた人で映画の仕事もしているそうですが、監督はフジテレビの人なんですよね。『沙粧妙子~最後の事件』とか、テレビドラマとしては面白い作品を作っている人だと思うのですが、その辺が映画的じゃない理由なのかもしれません。
柳楽優也さんは確かに存在感がありました。それに、よく考えたら、彼はあんなすごいところにロケにいって、象に乗れるようになり、映画の中では本当に象使いに見えるようになったのだから、そのことはすごい。母親役が常盤貴子さんというのはちょっと若すぎるのでは?と思うのですが、実はあまり違和感がなかった。最近いわゆるトレンディドラマには出ていないし、演技派目指しているのかもしれません。

見ておもしろくなかったわけではないです。
哲夢が象使いになりたかった理由を、母親はずっと自分が親らしいことを何もしなかったから、哲夢は自分を嫌って象とばかり一緒にいるようになったと思っていたのですが、死後、ガールフレンドの絵美から「哲夢が象使いになったのは、お母さんが象に夢中になっていたから。お母さんの夢を追いかけようと思ったから」と伝えられます。
象は人間には聞こえない低周波を出して、遠く離れている仲間と意思と伝え合うことができるそうです。実在した坂本さんがそうだったか、は分かりませんが、映画の哲夢はその「象のことば」を聞く能力があるように見えます。まっすぐに思いを伝え合っている象たちや、象と哲夢の関係と比べると、人間同士というのは哲夢が言うようになんだか不便に見える。人間と象と、どちらが優れている、ということではなくて、どちらも生物のひとつのあり方で、それぞれが違っているということ。人間同士の中で文化の違いがあって、それが優劣ではないように。
それから、哲夢の夢だった「象の楽園」について。
タイでは、お釈迦様の前世が白象だった、という仏教信仰に基づいて象は大切にされています。象の訓練のために4、5歳の子象を母親から引き離す、ということもしますが、人間と象が一緒に生活していくためのコミュニケーション手段やルールを象に教えるためにはそれくらいの年齢でなければならないそうです。そして、年をとった象が帰っていくための山があります。
哲夢はタイの象学校でそのことを知り、人間の都合で日本に連れてこられてそれでも人間を楽しませたり慰めてくれている象が余生を送れる場所をつくろうと思うようになります。
結局、象はもともと日本にいたものではなくて、タイのように仏教信仰というベースもない。だから、哲夢や彼の夢をついだ母親のように個人的に象に思い入れた人が私的な活動で頑張るだけになってしまうのかな。ちょうど、寒さの厳しい北部ヨーロッパでは植物が収穫できない時期に豚などの家畜を丸ごと全部保存食として食べる、という伝統があるのにたいして、肉食の一部だけを取り入れた日本でいろいろなひずみがでているように。
でも、象だけじゃなくて、生き物を飼う、一緒に暮らす、ということに対する姿勢がきちんとしていれば、別に仏教信仰とか象を神聖視するという文化がなくても、日本なりの筋の通った対処というのがあると思うのですけれど。
by unekocan | 2005-08-09 10:43 | 映画